2013年12月17日火曜日

「震災遺構」

焦点/宮城の震災遺構/県有識者会議、課題が山積

宮城県山元町が保存を検討する旧中浜小校舎。2階建て校舎の屋上倉庫は、児童ら90人が津波から逃れた当時の様子がうかがえる=11日
 東日本大震災の脅威を後世に伝える「震災遺構」に対する国の保存支援策が示されたのを機に、宮城県は保存建物を選ぶ有識者会議の初会合を18日に開く。国の支援対象は1自治体1カ所だけで、維持費は市町村の負担となる。南三陸町が解体方針を決めた防災対策庁舎の保存の是非も議論される見通しで、有識者会議や県が乗り越えるべきハードルは多い。

◎維持費は?複数選定は?住民合意は?

 「1カ所にすることは考えていない」。石巻市は11月27日、震災遺構の選定や保存方法を討議する市震災伝承検討委員会で、出席委員に遺構の保存対象を一つに絞らないよう求めた。
 市がくぎを刺したのは、復興庁が「自治体の公平性の観点」から1市町村1カ所に支援を限定したためだ。

<独自に選ぶ>
 被災自治体で最多の約3500人が犠牲になった石巻市は、遺構候補の参考として津波襲来後に火災で焼けた門脇小校舎など8カ所を挙げた。市幹部は「候補が複数ある場合の対応を有識者会議で議論してほしい」と県の会議で要望した。
 県は有識者会議の委員に研究者ら9人を選定。「遺構の意義を確かめ、何が保存にふさわしいかを選ぶ場」と位置付けるが、多くの被災市町は独自に遺構を選んでいる。
 市町にとっての懸案は、複数保存する際の費用や語り部育成などソフト対策だ。国の支援は保存のための初期費用だけで維持管理費はない。市町から「負担が重い」との声が上がる。ある自治体は「県と有識者会議がどんな支援策を出すのか注目している」と話す。
 「国の支援内容はまだ入り口。維持管理費などは段階を踏んで国に要望すればいい」(仙台市の担当者)との声もあり、被災市町と国を仲介する県の調整力が問われる。

<手詰まり感>
 もう一つの焦点は、遺構保存に向けた住民合意のプロセスを示せるかどうかだ。
 職員ら43人が死亡・行方不明になった南三陸町の防災対策庁舎は、町が解体を決めるまで保存の是非をめぐる活発な住民議論はなかった。「町を二分する意見があり、非常にデリケートな問題」(佐藤仁町長)だからだ。
 こうした手詰まり感がある状況で、第三者である県や有識者会議の存在は重い。住民合意の道筋を示しながら、議論をリードしていく役割が求められる。
 国は遺構保存の結論が出るまで、被災建物の存続費用を負担する方針。県は有識者会議の協議の目安は2014年度末とし、「拙速に決めれば『保存ありき』と受け止められかねない。財政面や維持管理体制を含めて話し合う」と慎重に議論する姿勢を示す。

<メモ>宮城県の沿岸15市町のうち8市町で震災遺構の候補がある。名取市は何を遺構として保存すべきかの内部検討を始めた。塩釜、多賀城、亘理、松島、七ケ浜、利府の6市町は遺構候補がないという。

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